アンジェスは吉村知事率いる大阪ワクチンの中心企業
コロナショック以降、株式市場を最も賑わせている銘柄がバイオベンチャーのアンジェス(4563)です。
株価は2020年2月28日に388円の安値をつけた後、大きく上昇し、2020年6月26日には一時2,492円まで上昇しました。
時価総額も一時、3000億円を超え、東証マザーズ市場の中でメルカリに次ぐ第2位となりました。
コロナショック後の東証マザーズ市場の急上昇のきっかけとなった銘柄とも言えます。
アンジェスが大きく上昇した理由は、大阪府・吉村知事が音頭を取りオール大阪で取り組んでいる新型コロナウイルス予防ワクチンの開発です。
このワクチンの開発の中心企業が阪大発のバイオベンチャーであるアンジェスです。
また、ワクチン開発に積極的に関与している大阪府・吉村知事の人気も株価上昇に拍車をかけています。
しかし、医療関係者や株式市場の関係者の中にはアンジェスが本当にワクチンを開発できるのか懐疑的に見ている人も多いようです。
これはおそらく過去の業績や株式市場での評判が影響していると思われます。
ちなみにアンジェスは1999年12月に創業、2002年9月25日に上場しています。
バイオベンチャーと表現しましたが、上場してから既に18年も経過しています。
アンジェスの売上高・当期利益の推移(2001年12月期~2019年12月期)【合計赤字額428億円】
下記は19年間(2001年12月期~2019年12月期)の売上高と当期利益のデータです。
これは凄いです。
黒字になったのは上場直前の1回のみで、上場後は18年連続赤字です。
しかも、売上高が減少傾向である一方、当期利益の赤字額は大きく増加しています。
累積の赤字額は約428億円となっています。
直近の売上高が僅か3億円しかないにも関わらずです。
普通に考えると「この業績でどうして破綻しないのか?」と思う人も多いのではないでしょうか。
破綻しない理由は増資を繰り返しているからです。
アンジェスの増資実績【合計調達額663億円】
下記はアンジェスの過去の増資の一覧です。
プレスリリースから1つずつデータを確認しました。
これも凄いです。
IPO時を含めて合計17回、約663億円の増資です。
しかも、2011年以降の増資は規模が小さかった4回を除くと、残りの10回は普通株式ではなく「新株予約権(行使価格修正条項付)」による増資です。
- IPO時:2002年9月
- 普通株式:2003年9月、2007年3月、2011年2月、2012年6月、2014年4月、2015年5月
- 新株予約権(行使価格修正条項付):他10回
新株予約権(行使価格修正条項付)の増資を行っているということは、2011年以降は通常の増資が不可能であったと思われます。
新株予約権(行使価格修正条項付)は引き受ける側からみると非常に有利な条件であるため、業績が悪い企業でも増資が可能となります。
例えば直近の2020年2月17日に発表された「新株予約権(行使価格修正条項付)」の条件です。
- 発表日:2020/2/17
- 発表日の前営業日の株価:584円(200/2/14)
- 割当先:フィリップ証券
- 割当日:2020/3/4
- 行使価格:当初584円、その後は直近終値の92%に修正、下限292円
つまり、常に8%安い価格で取得でき、株価が下落しても行使価格は下限価格(292円)まで連動して下落します。
権利は分割でも行使できるので、この条件であればほとんど損をしません。
逆に、既存投資家は大幅な希薄化により株式価値が低下するので、たまったものではありません。
よって、このような「行使価格修正条項」がつく「新株予約権」は株式市場で評価されません。
一昔前に問題になったMSCB(修正条項付新株予約権付社債)と同じようなイメージです。
- MSCBについてはこちらを参照:MSCB(転換価格が下方修正される転換社債)について / 貸株とセットで悪のプランに
ただし、新株予約権(行使価格修正条項付)といえ、この業績でここまで増資ができるのはある意味凄いことです。
何か投資家を引き付ける魅力があるのかもしれません。
大阪ワクチンが成功しなくても東証マザーズ市場の活況には貢献した
2019年12月までの累計赤字428億円と累計調達額663億円との差額は235億円です。
差額の内訳は2019年12月末の純資産が120億円と増資の内2020年3月の分が93億円あり、この2つで大部分が説明できます。
上記のような「業績」と「増資履歴」からワクチン開発に懐疑的な見方が多いようです。
たしかに20年以上もほとんど実績を残せなかったアンジェスが新型コロナウイルスのワクチン開発に成功することは奇跡に近いとも言えます。
もし、これが成功したら吉村知事の人気も大幅アップとなりそうです。
日本人にとって国産ワクチンができることは非常に重要ので頑張ってもらいたいですが、あまり期待しすぎないで待ちましょう。
ワクチンに失敗しても、2020年3月~2020年6月の東証マザーズ市場の活況に貢献した実績はなくなりません。
- 東証マザーズの歴史はこちらを参照:東証マザーズ指数の全て(長期チャート・PER・PBR・構成銘柄トップ20)