債券・金利

仕組債の販売停止について考える(商品が悪いのではなく人の問題)

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仕組債の販売自粛が広がっています。

多くの投資家が損失を被り、トラブルが急増したことを受け、金融庁が指針を出したことで対応が一気に広がりました。

しかし、問題の本質を正確に理解している人が少ないと感じたので、下記でポイントを整理します。

仕組債という商品自体に問題があるわけではない

そもそも、金融商品は手数料を取りすぎていない限り、リスク・リターンは市場原理で決定されるので、商品自体が悪いという事は基本的にあり得ません。

仕組債は「債券+オプション」の組み合わせで組成されますが、それぞれの条件はその時々のマーケットプライスにより決定されるので、仕組債自体が良くない商品とされるのは理論的におかしな話です。

仕組債は様々な種類が存在(全ての仕組債が高リスクなわけではない)

仕組債には「株式を参照するもの」「為替を参照するもの」「金利を参照するもの」「クレジットを参照するもの」等、様々な種類があります。

例えば株式とクレジットではリスク・リターンが大きく異なることは一目瞭然です。

また、「株式を参照する仕組債」は日経平均などの「指数を参照する仕組債」と「個別株を参照する仕組債」があり、一言で「株式を参照する仕組債」といっても、参照する対象によりリスク・リターンが大きく異なります。

よって、全ての仕組債が高リスクなわけではありません。

問題になっているのは個別株を参照するEB債が大半

大きく損失が発生してトラブルになっているのは個別株式を参照するいわゆる「EB債」が大半と思われます。

特に2020年~2021年の上昇相場で大きく上昇した米国のグロース株を参照したEB債が問題となっており、これらの株価は仕組み債組成時から1/2、1/3以下になっているものが多くなっています。

ここで、EB債の問題点をまとめておきたいと思います。

EB債の問題点は下記の3つです。正確にはこの3つの複合的な要因により問題が大きくなっています。

  1. 銘柄選択に問題がある
  2. 早期償還によるロールを誘導する投資手法に問題
  3. ノックインする可能性が低いと錯覚しやすい

3つの問題点についてそれぞれ解説します。

①銘柄選択方法に問題

EB債のリスクは対象銘柄の下落リスクです。

その為、EB債を組成する際、銘柄選択が最も重要となります。ここは極めて慎重に行うべきです。

しかし、実際にはEB債の見た目の条件(利回り等)を良くするために、ボラティリティが高い銘柄を選択するケースが多くなっています。

ボラティリティが高い銘柄というのは多くの投資家が注目しており、売買が活発になっている銘柄で、既に高値圈にあるケースが多くなります。

その為、その後下落した場合に大きな損失が出るのは当たり前と言えます。

また、EB債組成後に株価が上昇した場合でも、下記で紹介する「早期償還条項」を付与していることで、EB債が償還となります。

その後ロールすると、再び高値圈でEB債を設定することになります。

②「早期償還+ロール」で継続投資する投資手法に問題

多くのEB債では早期償還条項を付与しており、償還された場合は再度、EB債を組成するように提案されます。

早期償還条項は株価が一定価格以上(通常5%~15%程度が多い)になれば、EB債が償還する仕組みです。

これは投資家も勘違いしやすい仕組みで、早期で返ってくるなら悪くないと考えがちなのですが、実はここに大きなリスクが存在します。

通常、早期償還すると再度、EB債を組成するように勧誘されます。

この提案に乗って投資を継続していると、EB債に投資する際の参照株価がどんどん高い水準になっていきます。

つまり、ダウンサイドリスクがどんどん大きくなることになります。

それなら、早期償還条項を付与しなければ良いのではと思う方もいると思いますが、そうすると利回りが大きく低下します。

また、銘柄を変更して上手く立ち回れればリスクを回避することも可能かもしれませんが、これが上手くいくことはほとんどありません。

もしそれが可能であれば、EB債ではなく、個別株に投資した方が良いでしょう。

③ノックインする可能性が低いと錯覚させる

個人的には理由がよく分かりませんが、最大リスクは個別株投資と同じにもかかわらず、債券の形になるとリスクが低いと錯覚する投資家が多いようです。

例えばテスラの個別株であれば1000万円買うのも躊躇する人がテスラのEB債になると1億円投資してしまいます。

これは証券会社の提案の仕方にも大きな問題があると思います。

良くあるのが、ノックイン水準を現在の株価から40%下で設定する場合で「これまでこの銘柄は高値から40%下落したことがない銘柄です」という提案パターンです。

あまり詳しくない投資家がこれを聞くと「それなら大丈夫かな」と錯覚してしまうようです。

しかし、どんな分野でも歴史は新しく作られるものなので、株式市場でもこれまでのパターンが永遠と続くとは限りません。

そもそも個別株投資は超難易度が高い

個別株投資の経験がある方は良く分かると思いますが、個別株投資で長期的に成功することは極めて難しいと言わざるを得ません。

SNS等では著名な投資家が沢山いますが、これは天才の集まりと理解すべきです。

EB債もダウンサイドリスクは個別株と同様ですので、そもそも個別株を参照するEB債に投資して利益を上げるという事が、極めて難しい事であると認識すべきです。

仕組債の問題は商品の問題ではなく人災

最後に、上記の内容を認識せずに、軽い気持ちでEB債を提案した結果、顧客に大きな損失を与えてしまったのであれば、これは商品(仕組債)が悪いのではなく、人災と言わざるを得ません。

その為、仕組債全体を規制するのは間違いで、商品に関係なく提案手法・提案までのプロセスを見直すべきだと思います。

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