ドイツ銀行がCoCo債(AT1債)のファーストコール(初回の繰り上げ償還)をスキップ(見送り)しました。
通常、CoCo債の投資家は初回の繰り上げ償還日で償還されることを期待して購入しています。
ドイツ銀行がCoCo債のファーストコールをスキップしたと言うと、ドイツ銀行の業績が悪いことから、ドイツ銀行固有の要因だと思われる方も多いでしょう。
しかし、実際は異なります。
結論から申し上げると、2月下旬から大きくなったコロナウイルス問題の影響です。
2020年2月15日以降はドイツ銀行以外のCoCo債も大きく下落しています。
2月上旬時点のマーケット環境であれば繰り上げ償還の可能性は高かったと思われます。
実際、ドイツ銀行は今回スキップしたCoCo債と同じ金額(12.5億ドル)のCoCo債(クーポン当初6.0%)を2020年2月14日に発行しています。
この資金で償還させるつもりだったのでしょう。
2月14日時点では今回スキップしたCoCo債の単価も100を上回っていました。
「それなら償還してくれても良いのに」と言いたくなりますが、その後環境が大きく変化したことで、現在の条件であれば繰り上げ償還を見送った方が経済的合理性があるという判断になったと思われます。
スキップしたCoCo債のクーポンの条件は下記の通りです。
- 2020/4/30まで:6.25%固定
- 2020/4/30以降:5年スワップ+4.358%
現在の5年スワップレートは0.72%前後ですので、今のままの条件であればスキップした後は5.1%のクーポンとなります。
2月14日に発行したCoCo債のクーポンが6.0%ですので、仮に現在発行しようとするとそれよりもかなり高い7%前後のクーポンとなるはずです。
ここまで条件が違うのにこれを償還してしまうと、株主に説明できないということではないでしょうか。
よって、ドイツ銀行のCoCo債はドイツ銀行の業績よりコロナウイルス問題が終息するか否かがポイントなります。
つまり、株式など他の金融商品と同じということです。
ドイツ銀行のCoCo債のトリガーは普通株式等Tier1比率(CET1比率)で5.125%です。
世界の大手銀行はリーマンショック以降、自己資本比率を大きく上昇させています。
ドイツ銀行の普通株式等Tier1比率(CET1比率)は2019年12月時点で13.6%あります。
ドイツ銀行は業績悪化が続いていますが、トリガーヒットの可能性はかなり低いと考えてよいでしょう。
スキップしたCoCo債の単価は現在、81前後まで下落していますが、2016年や2018年より高い水準です。
2016年は70ドル前後、2018年は80ドル前後まで下落しましたが、共にその後100以上(オーバーパー)まで回復しました。
下記はファーストコールをスキップしたドイツ銀行CoCo債の債券価格の推移です。
今回もマーケット環境が落ち着けば戻るでしょう。
次回コールは5年後ですが、米ドルは金融緩和が続き、ベース金利が低い状態が続くと思われますので、スプレッドが縮小するとかなりのオーバーパーとなる可能性も十分あります。
また、ドイツ銀行は2月14日に発行したCoCo債があるので、自己資本比率にはかなり余裕があります。
そのため、欧州債務危機の際に一部の銀行が行ったように、ドイツ銀行自身がスキップしたCoCo債をマーケットで買い入れていく可能性もゼロではないと思います。
金融機関ですので買入れの為の資金調達は容易です。
また、アンダーパーで購入した場合、額面(100)との差額は決算で利益計上できます。
利益が増えるため、これは自己資本比率を引き上げる要因となります。
そして、現在はドイツ銀行だけでなくBNPパリバやバークレイズのCoCo債も過去1ヶ月で10%前後の下落となっています。
今回のスキップはタイミングが悪かったというしかないでしょう。
2019年にCoCo債のファーストコールをスキップしたサンタンデールのケースでは、スキップを公表した2019年2月前後が最も安い時期で、その後上昇して2019年5月には単価が100を超えました。
CoCo債は2019年に大きく値上がりして魅力的なものがなくなっていましたが、今回の混乱で魅力的なものも増えてきました。
いつ、どの水準がボトムかは分かりませんが、今回スキップしたドイツ銀行CoCo債を含めて、コロナウイルスの影響を見極めながら投資するチャンスがきました。
少なくとも今の水準で購入した場合、マーケットが落ち着けば十分利益が出るでしょう。
上記の通り、ドイツ銀行でも全く問題ないと思いますが、株価も下落しているので心配という方は、BNPパリバやバークレイズ等のCoCo債に投資すれば良いでしょう。
さすがに世界のメガバンクがいくつも破綻することはないでしょう。
また、為替リスクを取りたくない方はCoCo債に投資する公募投信の円ヘッジコースに投資するとよいでしょう。
現在、米ドルの短期金利が低下しており、円ヘッジコストが急激に低下していますので円ヘッジ型の投信も機能します。
- CoCo債の仕組みはこちらを参照してください:世界ハイブリッド証券戦略ファンド(アドバンスド・インカム)/ CoCo債の分かりやすい説明 - ファイナンシャルスター
- 大手銀行の自己資本比率はこちらを参照してください:CoCo債で重要 / 世界の大手銀行のTier1比率と普通株式等Tier1比率 - ファイナンシャルスター