2017/6/24日経新聞記事
米メキシコ湾、原油生産最高シェール上回る伸びOPEC減産でも相場下押し
【ニューヨーク=稲井創一】米南部メキシコ湾の海底油田の原油生産が加速している。直近2017年3月の同原油生産は過去最高を更新。コスト競争力が高く、石油メジャー中心に生産開始が相次ぐ。米原油生産の回復局面での増産ペースはシェールを上回る勢いだ。石油輸出国機構(OPEC)による減産の効果を打ち消す格好で米原油生産が増加するなか、シェールとともに原油相場の下押し要因として無視できなくなりそうだ。
米エネルギー情報局(EIA)によると、米メキシコ湾海底油田の17年3月の原油生産量は前年同月比8%増の日量176万3千バレルだった。約7年半ぶりに過去最高を更新した1月の水準を上回った。生産量は米原油全体の2割弱を占め、シェールオイルの約3分の1の水準に迫る。
英BP統計では16年の米国原油生産量(天然ガス液含む)は日量1270万バレルと世界シェア13%で国別で最大だ。米原油生産は直近の底だった16年9月から17年3月まで、月間ベースで約53万バレル増加。同期間のメキシコ湾海底油田の増加量は約25万バレルで、同27万バレル増えたシェールとともに米原油生産のけん引役だ。増加率ではメキシコ湾海底油田が約17%とシェールの約6%を上回る。
■英BPなど開発
「メキシコ湾が引き続き世界の上流権益でカギとなる」(BPのボブ・ダドリー最高経営責任者=CEO)。同社は17年1月、11カ月前倒しで米メキシコ湾で原油換算で日量5万バレルの油井での生産を開始した。21年に向けて、メキシコ湾で日量14万バレルの大型海底油田開発も別に進めている。
BPは10年にメキシコ湾で原油流出事故を起こし、補償など総額6.5兆円の対策費用を負担した。それでも再び開発強化に動いたのは、メキシコ湾海底油田の競争力が高いためだ。
米エネルギーコンサルタントのストラタス・アドバイザーズによると、メキシコ湾の海底油田だと損益分岐点は浅瀬で1バレル22ドル、水深数百メートル以上の深海でも37ドルと、40~65ドルのシェールに比べてもコスト面で優位だ。海底油田は一つの油井から長期間にわたり、大量の原油が生産できるため生産効率も高い。メキシコ湾岸には全米の製油所が集中しており、需要地が近く輸送コストが抑えられる利点もある。
「メキシコ湾は我々の海底油田部門の利益をけん引している」(英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルの上流部門担当役員のアンディ・ブラウン氏)などと資源各社はメキシコ湾を重視。16年にはシェルや米エクソンモービル、17年以降には米資源大手フリポート・マクモランや米シェブロンの鉱区などで生産が始まる。
同海底油田が原油の国際価格に与える影響も無視できなくなってきた。足元のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油価格は42ドル台と約10カ月ぶりの安値水準で推移。シェール勢にとって利益を上げるには厳しい原油価格の水準にさしかかっており、「1バレル40ドルを割れば増産計画を見直す企業も出てくる」(米資源開発関係者)との見方が多い。
■油井止めにくく
一方、多くの作業員が従事する海底油田はいったん稼働した油井を止めると費用がかさむ。油井の質も劣化する問題もあるため頻繁に生産を止めにくい。コスト競争力が高いこともあり、EIAは20年までメキシコ湾の海底油田の原油生産は増加し続けると予想する。
原油価格の下落を受けOPECは5月に協調減産の9カ月延長で合意。足元では減産幅拡大も検討する。だがメキシコ湾海底油田が下支えする形で米国の原油生産がさらに拡大すれば、減産効果が相殺されかねない。
世界の原油生産のおおよその内訳です。
- OPECの生産量3,200万バレル
- 米国の生産量1,270万バレル
- 世界の生産量10,000万バレル
現在、OPECは2018年3月までの減産延長で合意し、日量120万バレル程度の減産を行っています。
記事にあるように米メキシコ湾の海底油田とシェールオイルの増産が続いています。
ただし記事内のグラフや表を見ても分かるようにOPECの減産分をすぐに埋める規模の増産ではありません。
しかし、米国の原油生産量は長期的に増加しそうです。
表にあるようにメキシコ湾の開発は当面続くようですし、シェールオイルの生産コストが大きく低下しています。
3年前まではシェールオイルの生産コストは80ドル前後で、原油価格がこれを下回った場合、シェールの開発がストップするため、原油価格が80ドルを大きく下回ることはないと言われていました。
しかし記事にもあるようにシェールオイルの生産コストは40ドル~65ドルまで低下しています。
心配なのはこのペースで行くと近い将来、シェールオイルの生産コストが20ドル程度になるのではないかということです。
そうなると当面、原油価格の上昇は見込めません。
場合によっては昔のように長期間、低位安定となる可能性もあります。
1986年~2003年までは1バレル=10ドル~30ドルでの推移でした。(湾岸戦争があった1990年は一時期40ドルまで急騰したがすぐに20ドル以下まで下落)
OPECの減産は永久に行うわけにはいきません。
そうなるとメキシコ湾の海底油田とシェールオイルの増産が進む分だけ供給が増えることになります。
また需要面は中国、インド、その他新興国の成長によりエネルギー需要自体は大きく増加すると考えられますが、太陽光や電気自動車など代替エネルギーに取って代わられる可能性も大きいと思います。
よって総合的に考えると原油価格が大きく上昇することは考えにくいと感じます。
大きな上昇があるとすれば戦争などの地政学リスクが発生する場合などに限定されると思われます。